海外競馬場の坂と高低差|アスコット・ロンシャンは日本と何が違うのか
海外の大レースに日本馬が出走すると、道中で脚を使ってしまい、直線を向いたときには余力が残っていない——そんな負け方を見ることがあります。
原因のひとつとして挙げられるのが、コースの起伏です。
日本の競馬場にも高低差はありますが、海外には日本にない形状のコースが存在します。
このページでは、JRA公式が各国の競馬場について公開している記載をもとに、海外主要コースの起伏を整理します。
数字で見る、日本との違い
まず高低差が明記されているコースを並べます。
| 競馬場 | 国 | 高低差 | 主なレース |
|---|---|---|---|
| アスコット | イギリス | 約20m | キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS |
| パリロンシャン | フランス | 10m | 凱旋門賞 |
| シャンティイ | フランス | 10m | ディアヌ賞(フランスオークス) |
| 中山(参考) | 日本 | 5.3m | 有馬記念 |
| ムーニーバレー | オーストラリア | 約5m | コックスプレート |
| コーフィールド | オーストラリア | 1〜2mほど | コーフィールドカップ |
| フレミントン | オーストラリア | ほぼ平坦 | メルボルンカップ |
アスコットの約20mは、JRAの記載では中山競馬場の約4倍にあたります。
中山はJRA10場で最も高低差が大きい競馬場ですが、それでも5.3mです。
なおJRA公式は、パリロンシャンの10mについても中山のほぼ倍と説明しています。
欧州:日本にない形状
数字の大きさ以上に効いてくるのが、坂がコースのどこにあるかです。
アスコット(イギリス)|キングジョージ
スタートから最初のコーナー、通称スウィンリーボトムまでの約800mで約20m下ります。
JRAはこの区間について、先手を取りに行こうとするとスピードに乗りすぎ、コントロールが難しくなるパターンが目立つと説明しています。
そしてコーナーを過ぎると一転して、残り200m辺りまで上り坂が延々と続きます。
下ってから長く上り、最後にもう一度坂を迎える構成で、スタミナとパワーが問われます。
パリロンシャン(フランス)|凱旋門賞
向正面に最大斜度2.4%の上り坂があり、3コーナーを過ぎると下りに転じます。
この下りは600m進む間に10m下がる設計です。
その後、名物のフォルスストレート(偽りの直線)を250mほど走ってから、実際の直線に入ります。
最後の直線は平坦で533mあり、JRAは東京競馬場とほぼ同じ距離だと説明しています。
坂を上って下ってから、平坦な長い直線で改めて勝負になる形です。
シャンティイ(フランス)|ディアヌ賞
高低差はロンシャンと同じ10mですが、起伏の位置が違います。
3コーナーから傾斜の大きな下りに入り、3コーナーと4コーナーの中間で下り切ると、今度は上り坂が待っています。
JRAはこの区間を「谷」とも形容し、ロンシャンとの違いは直線の坂の有無だと整理しています。
サンダウン(エクリプスS)・レパーズタウン(アイリッシュチャンピオンS)
サンダウンは最後の直線が800m弱あり、そこがずっと上り坂です。
レパーズタウンも向正面の半ば過ぎから上りが多く、約400mの最後の直線もゴールまで上りが続きます。
いずれもレース後半に上りが集中するため、スピードだけでは押し切りにくい設定です。
ダート主体の開催地:サウジ・ドバイ・アメリカ
日本馬が近年とくに結果を出しているのが、ダート主体のこれらの開催地です。
サウジカップが行われるキングアブドゥルアジーズ競馬場は、JRAの記載では「アメリカ型の左回り、平坦のオーバルコース」です。
ドバイワールドカップデーの舞台であるメイダン競馬場も、コース紹介で起伏には触れられていません。
ブリーダーズカップやケンタッキーダービーが行われるアメリカの競馬場も、基本はオーバル型のダートコースです。
ただしアメリカにも例外はあります。
サンタアニタパークには向正面後方の丘から下ってくる芝コースがあり、JRAは最初の2ハロンが下りでスピードが出やすく、コーナーで外に膨れる危険があると説明しています。
欧州のような長い上りとは別種の、日本にない設計です。
ただし「海外はタフ」と一括りにはできない
ここが誤解されやすいところです。
同じイギリスでも、ヨークは起伏が小さく、JRAは「アスコット競馬場のようなタフなものではない」と明記しています。
フランスのドーヴィルもほぼ平坦で、ロンシャンとは性質が異なります。
1998年にシーキングザパールが日本調教馬として海外G1初勝利を挙げ、その翌週にタイキシャトルがジャックルマロワ賞を制したのも、この競馬場です。
オーストラリアではさらに差が大きく、ムーニーバレーの約5mに対し、フレミントンはほぼ平坦、コーフィールドは1〜2mほどです。
香港のシャティンは緩やかな上りと下りを持つ程度で、サウジのキングアブドゥルアジーズは平坦なオーバルコースと記載されています。
つまり海外遠征といっても、行き先のコース形状は大きく異なります。
問われるのは「適応できるか」
平坦なコースだから日本馬に有利、という単純な話ではありません。
日本の競馬場にも中山のような急坂はあり、坂そのものが未経験なわけではないからです。
問題になるのは、日本にない形状——たとえば800mかけて20m下り続ける区間や、直線が800m弱ずっと上りという設計に、当たったことがないという点です。
同じ日本馬でも、そうしたコースにうまくはまる馬もいれば、慣れない起伏で道中に脚を使ってしまう馬もいます。
結果を分ける要素は馬場の質やレースのペース、輸送など複数あり、起伏だけで説明はできません。
ただ、出走するコースがどんな形状なのかを知っておくと、レースの見え方は確実に変わります。
日本の競馬場はどうなっているか
比較の土台として、JRA10場の高低差と坂の位置も整理しています。
日本国内でも、中山の5.3mから札幌の0.7mまで7倍以上の差があります。
まとめ
アスコットの約20m、ロンシャンとシャンティイの10mは、いずれも日本では経験できない規模です。
一方で、ヨークやドーヴィル、フレミントンのように平坦寄りのコースもあります。
海外遠征のニュースに触れたときは、まずその競馬場がどちら側なのかを確かめてみると、レース展開の予想がしやすくなります。
参考(出典)
本記事の高低差・斜度・コース形状は、JRA公式サイト「各国の競馬」の各競馬場ページの記載によります。
