距離短縮は本当に買いなのか|JRA約8.7万出走で見た延長・短縮の勝率と回収率、延長を割り引くべき条件
出馬表で「前走1800m → 今回1600m」という並びを見て、距離短縮だから買いと考えていませんか。
「短縮は買い、延長は割引」——競馬を続けているとよく耳にする言い回しですよね。
ですが、中央競馬(JRA)の1勝クラス以上 約8.7万出走を前走との距離差で集計すると、この2つは同じようには成り立ちませんでした。
距離短縮のほうは、同距離で使ってきた馬とほとんど変わりません。
一方の距離延長は、前走の着順が同じ馬どうしで比べても成績が落ちました。
ただし、それを気にする必要があるのは人気薄のときだけです。
どこまでが割り引く材料で、どこからは見なくていい数字なのかを見ていきましょう。
・距離短縮の馬と同距離の馬は、成績がほとんど変わりません。前走の着順をそろえて比べると、複勝率の差は消えます。
・割り引けるのは距離延長の馬だけです。前走の着順をそろえても、複勝率は2.5pt〜6.7pt低くなります。
・1〜3番人気なら距離が変わっても関係ありません。複勝率は51.1%対50.8%です。
・延長で損をするのは人気薄のときで、複勝回収率は上位人気82%に対し4番人気以下は65%でした。
・芝1600m以下への距離延長だけが例外的に悪く、複勝率は14.3%まで落ちます。
「距離短縮は買い」は成り立っているのか
まずは前走と比べて、同距離・距離短縮・距離延長の3つに分けます。
| 前走との距離 | 勝率 | 複勝率 | 単勝回収率 | 複勝回収率 | 出走数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 同距離 | 8.4% | 24.9% | 73% | 75% | 41,429 |
| 距離短縮 | 7.0% | 21.0% | 78% | 74% | 22,324 |
| 距離延長 | 6.1% | 18.8% | 66% | 68% | 23,163 |
勝率も複勝率も、同距離がいちばん高くなりました。
距離を変えた馬はどちらも下回っていて、距離短縮の複勝率は21.0%、距離延長は18.8%です。
この表の数字から読み取れるのは、「短縮は買い」ではなく「距離を変えない馬がいちばんいい」という話です。
ですが、この数字が表しているのは距離の違いではありません。
距離を変えてくる馬には、大きな偏りがあるからです。
距離短縮の馬は、そもそも前走で負けている
距離を変えるかどうかは、陣営が前走の結果を見て決めます。
うまく走れた馬は同じ距離をもう一度使い、走れなかった馬は距離を変えてきます。
3つのグループが、それぞれどんな馬でできているかを見てみます。
| 前走との距離 | 前走1〜3着 | 前走4〜5着 | 前走6着以下 | 出走数 |
|---|---|---|---|---|
| 同距離 | 35.9% | 16.3% | 47.8% | 41,196 |
| 距離短縮 | 20.3% | 13.4% | 66.3% | 22,187 |
| 距離延長 | 26.2% | 13.4% | 60.4% | 23,050 |
距離短縮の66.3%が、前走6着以下の馬でした。
同距離のグループでは47.8%しかありません。
ひとつ前の表は、負けた馬ばかりのグループと勝った馬も混じったグループを並べていたわけです。
これでは距離の違いを比べたことになりません。
前走の着順をそろえると、短縮の差は消える
そこで前走の着順をそろえて、似たような馬どうしで比べます。
数字は複勝率です。
| 前走との距離 | 前走1〜3着 | 前走4〜5着 | 前走6着以下 |
|---|---|---|---|
| 同距離 | 36.4% | 28.1% | 15.2% |
| 距離短縮 | 34.6% | 28.4% | 15.3% |
| 距離延長 | 29.7% | 25.6% | 12.6% |
同距離と距離短縮の列を見比べてください。
前走1〜3着では36.4%対34.6%、前走4〜5着では28.1%対28.4%、前走6着以下では15.2%対15.3%です。
3つとも、ほぼ重なりました。
着順ごとの3つを合わせて計算しても、同距離と距離短縮のあいだに差は見つかりません。
単勝回収率だけが高いのはなぜか
最初の表では、単勝回収率だけ距離短縮が78%と高く出ていました。
ですが複勝回収率は74%で、同距離の75%とほとんど変わりません。
単勝の回収率は万馬券が1本出るだけで大きく動くので、これだけで短縮を買う理由にはなりません。
落ちるのは距離延長のほう
距離延長は、どの着順のグループでも同距離を下回りました。
差は前走1〜3着で6.7pt、前走4〜5着で2.5pt、前走6着以下で2.6ptです。
前走で3着以内に入った馬が距離を延ばしたときに、いちばん大きく開きます。
3つを合わせても差ははっきり出ていて、たまたまとは考えられません。
定説のうち、本物は延長の割引だけです。
短縮を理由に印を上げる根拠は、今回の集計からは出てきませんでした。
距離延長の割引は芝でもダートでも変わらない
では、芝とダートでは話が変わるのでしょうか。
前走6着以下の馬だけを取り出して、芝とダートに分けます。
| 馬場 | 同距離 | 距離短縮 | 距離延長 |
|---|---|---|---|
| 芝 | 16.1% | 16.8% | 13.4% |
| ダート | 14.4% | 14.0% | 11.6% |
同距離との差は、芝が2.6pt、ダートが2.7ptでした。
ほぼ同じ大きさです。
レース間隔や馬体重の増減は、芝とダートで正反対の結果になりました。
距離の変更は、芝とダートで分けて考える必要がありません。
芝でもダートでも、距離延長は同じだけ割り引いて構いません。
人気馬は距離が変わっても走る
ここまでの話は、どの馬にも当てはまるのでしょうか。
人気で分けて見ます。
| 人気 | 前走との距離 | 勝率 | 複勝率 | 単勝回収率 | 複勝回収率 | 出走数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1〜3番人気 | 同距離 | 21.1% | 51.1% | 75% | 80% | 10,878 |
| 距離短縮 | 21.2% | 50.5% | 79% | 83% | 4,530 | |
| 距離延長 | 22.1% | 50.8% | 79% | 82% | 3,926 | |
| 4番人気以下 | 同距離 | 3.8% | 15.5% | 73% | 73% | 30,551 |
| 距離短縮 | 3.4% | 13.4% | 78% | 71% | 17,794 | |
| 距離延長 | 2.9% | 12.3% | 63% | 65% | 19,237 |
1〜3番人気では、同距離が51.1%、距離延長が50.8%です。
差がありません。
複勝回収率にいたっては、距離延長のほうが高く出ています。
上位人気なら距離の変更は気にしなくて構いません。
馬体重の増減を調べたときも、まったく同じ結果でした。
人気馬が走るかどうかは、こうした細かい条件では決まらないようです。
人気薄の距離延長だけは損になる
対して4番人気以下では、距離延長の複勝率が12.3%まで落ち、複勝回収率も65%にとどまりました。
上位人気の距離延長が82%だったことを考えると、差は小さくありません。
距離延長を嫌うのは、人気薄を買うかどうか迷ったときだけで足ります。
芝1600m以下への距離延長だけが例外
距離延長といっても、どこへ延ばすかで結果は変わるのでしょうか。
今回のレースの距離ごとに分けます。
| 今回の条件 | 同距離 | 距離短縮 | 距離延長 | 距離延長の出走数 |
|---|---|---|---|---|
| 芝1600m以下 | 24.0% | 21.0% | 14.3% | 3,635 |
| 芝1800m以上 | 27.7% | 24.7% | 22.1% | 8,343 |
| ダート1400m以下 | 23.4% | 18.0% | 15.7% | 3,485 |
| ダート1600m以上 | 25.5% | 20.9% | 18.8% | 7,700 |
芝1600m以下への距離延長だけが14.3%で、ほかの3つより明らかに低く出ました。
同じ条件の同距離が24.0%なので、差は9.7ptになります。
ほかの3つは5.6ptから7.7ptで、どれもこれより小さい差でした。
芝の短距離から距離を延ばす形だけは、ほかと分けて考えたほうがよさそうです。
出馬表で芝の短距離から距離を延ばしてきた馬を見つけたら、人気薄なら消す材料になります。
休み明けや未勝利ではどうなるか
放牧明けで距離を延ばす、という組み合わせは特別に悪いのでしょうか。
休み明けの馬だけを取り出して見てみます。
| 条件 | 同距離 | 距離短縮 | 距離延長 |
|---|---|---|---|
| 間隔10〜25週 | 23.9% | 21.0% | 19.0% |
| 未勝利戦 | 26.0% | 19.4% | 16.9% |
休み明けの馬だけで見ると、距離延長と同距離の差は4.9ptです。
全体の6.1ptとほぼ変わりません。
休み明けと距離の変更は、重ねて考えなくて構いません。
一方、この記事の集計から外している未勝利戦では、距離延長の複勝率が16.9%まで落ちます。
若い馬は距離を試しながら勝てる条件を探すので、事情が違います。
未勝利戦を検討するときは、ここまでの数字よりも強めに割り引いてください。
出馬表でどう使うか
ここまでの結果を、馬券を組み立てるときの判断材料として整理します。
- 距離短縮を理由に印を上げない。前走の着順をそろえると、同距離との差は消えました
- 距離延長は割り引いてよい。前走の着順をそろえても複勝率は2.5pt〜6.7pt低くなります
- 上位人気の距離変更は無視する。1〜3番人気は51.1%対50.8%で差がありません
- 距離延長を嫌うのは人気薄のときだけ。4番人気以下の距離延長は複勝回収率65%でした
- 芝の短距離からの延長は強めに割り引く。芝1600m以下への距離延長は複勝率14.3%で、いちばん低い数字でした
- 馬場では分けなくてよい。芝とダートで距離延長の差はほとんど同じでした
- 休み明けと重ねて考えない。休み明けの馬だけで見ても距離延長の差は変わりません
前走との距離差は、それだけでは読めない数字でした。
短縮の見かけの悪さは、距離ではなく前走の着順が作っていたものです。
距離延長だけは本当に割り引けます。
ただしそれが役に立つのは、人気薄を買うかどうか迷ったときです。
出馬表の距離の欄だけを見ず、前走の着順と人気を並べて判断してください。
- 出典:JRA 公式・JBIS Search の公開データをもとに当サイトが集計
- 集計期間:2023年1月〜2026年5月の中央競馬平地競走
- 集計対象:1勝クラス以上(新馬・未勝利・障害を除く)の約8.7万出走(86,916出走)。前走と距離を比較できる出走に限ります
- 区分:同距離・距離短縮・距離延長の3区分。距離差の大きさは問わず、方向だけで分けています
- 前走着順:前走1〜3着・4〜5着・6着以下の3つ。前走で着順がつかなかった馬(競走中止・失格・除外)は着順別の集計から外れます
- 差の判定:複勝率の差は統計的な検定(2標本比較と、前走着順で層別したマンテル・ヘンツェル法)で確かめています
- 注意:区分によって出走数に偏りがあり、出走数の少ない区分は確定値ではない点にご注意ください
- レース間隔そのもののデータを見たい人 → 休み明けの馬は買えるのか
- パドックの馬体重の見方を知りたい人 → 馬体重の増減は何kgから危険なのか
- 人気馬を切る基準がほしい人 → 1番人気が飛ぶ条件と危険な人気馬の見分け方
- 距離適性そのものを知りたい人 → 短距離馬と中・長距離馬の決定的な違い
- 期待値で買い目を決めたい人 → 競馬の期待値の計算方法
