前走の上がり最速は本当に買いなのか|勝率2.3倍の正体と、消していい馬の条件
出馬表の前走欄に「上がり最速」の印を見つけて、次はこの馬だと思ったことはありませんか。
「前走で上がり最速だった馬は次走で買い」——競馬を続けているとよく聞く話ですよね。
そこで、中央競馬(JRA)の約8.4万件の出走データ(1勝クラス以上)を前走の上がり順位で分けて集計しました。
その結果、上がり最速だった馬の勝率は6位以下だった馬の2.3倍ありました。
ところが、この差の大半は上がりが作ったものではありません。
そして回収率を見ると、買っても手元のお金は増えませんでした。
何が差を作っていたのか、どこで消すのかを見ていきましょう。
・上がり最速の馬は、たしかによく走ります。勝率は12.3%で、6位以下だった馬の5.4%の2.3倍です。
・ただしその差の大半は前走の着順が作っています。同じ着順の馬どうしで比べると、複勝率の差は16.3ポイントから2.8〜6.1ポイントまで小さくなります。
・芝でもダートでも、人気でもクラスでもコースでも例外は出ませんでした。どこを切っても同じように効きます。
・それでも回収率は動きません。上がり最速の複勝回収値は72〜82で、平均的な負け方に収まる範囲です。
・前走で負けた馬の上がり最速だけは、はっきり損です。複勝回収値65で、この記事で見たどの数字よりも低く出ました。
上がり最速の馬は、次走でどのくらい走るのか
まずは前走の上がり3ハロン(最後の600m)が何位だったかで、5つに分けます。
| 前走の上がり | 勝率 | 複勝率 | 単勝回収値 | 複勝回収値 | 出走数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | 12.3% | 33.7% | 70 | 76 | 9,575 |
| 2位 | 10.8% | 30.3% | 77 | 78 | 7,882 |
| 3位 | 9.3% | 27.4% | 73 | 76 | 7,090 |
| 4〜5位 | 8.7% | 25.6% | 76 | 74 | 12,888 |
| 6位以下 | 5.4% | 17.5% | 73 | 71 | 46,449 |
勝率も複勝率も上から下まできれいに並び、1位の12.3%に対して6位以下は5.4%と2.3倍の開きがありました。
定説は、成績で見るかぎり正しいことになります。
ですが、この表をそのまま買い材料にはできません。
読み方に2つの落とし穴があります。
- 上がり最速の馬は前走で好走している:上がりが速ければ前走の着順も良くなりやすいので、この区分には強い馬が最初から集まっています
- 回収値がどこも70台:勝率は2.3倍も違うのに、単勝回収値は70から77の範囲に収まっています
順番に確かめます。
差を作っていたのは、上がりではなく前走の着順
前走の着順をそろえて、同じ土俵で比べます。
同じ着順だった馬どうしで比べると差は小さくなる
| 前走の着順 | 前走の上がり | 勝率 | 複勝率 | 単勝回収値 | 複勝回収値 | 出走数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 前走1〜3着 | 1位 | 14.9% | 38.8% | 71 | 80 | 6,709 |
| 6位以下 | 12.2% | 32.8% | 69 | 71 | 4,611 | |
| 前走6着以下 | 1位 | 4.8% | 17.1% | 67 | 65 | 1,505 |
| 6位以下 | 4.0% | 14.2% | 73 | 71 | 36,905 |
複勝率の差に注目してください。
表全体では16.3ポイントあった差が、前走1〜3着では6.1ポイント、前走6着以下では2.8ポイントまで縮みます。
水準の違いを吸収するオッズ比という尺度でも、2.41が1.29まで下がります。
見かけの差の大半は前走の着順でした。
上がり最速という区分は、強い馬を集めていただけということになります。
前走で負けた馬に限ると、勝率の差は消える
前走6着以下だけを取り出すと、勝率は4.8%対4.0%です。
違いは0.8ポイント足らずで、ほぼ同じと見て構いません。
統計的な検定でも差は確認できませんでした。
複勝率には2.8ポイントの差が残るので、上がりの価値がゼロになるわけではありません。
ただし勝ち切る力まで押し上げる効果は、負けた馬には残っていません。
芝でもダートでも、人気でもクラスでも同じ
次に、条件を変えても同じように効くのかを確かめます。
上がり最速と6位以下の複勝率を、独立した切り口ごとに並べました。
| 切り口 | 上がり1位 | 6位以下 | 差 | 効き方の違い |
|---|---|---|---|---|
| 今走が芝 | 34.7% | 18.4% | +16.3pt | 差なし |
| 今走がダート | 32.7% | 16.6% | +16.1pt | 差なし |
| 1〜3番人気 | 55.4% | 46.9% | +8.5pt | ここだけ違う |
| 4番人気以下 | 19.1% | 12.3% | +6.8pt | ここだけ違う |
| 直線が長い(東京・新潟) | 35.3% | 17.3% | +18.0pt | 差なし |
| 直線が短い(中山・小倉) | 35.0% | 18.0% | +17.0pt | 差なし |
| 1勝クラス | 35.0% | 17.7% | +17.2pt | 差なし |
| オープン以上 | 30.3% | 16.6% | +13.7pt | 差なし |
芝とダートで意味が変わるのではないかと考えていましたが、複勝率は34.7%と32.7%でほとんど同じでした。
直線の長さでもクラスでも同じです。
唯一はっきり違ったのが人気でした。
人気薄では複勝率が12.3%から19.1%へ1.5倍になるのに対し、上位人気は46.9%から55.4%で1.2倍にとどまります。
上位人気はもともと実績で買われているので、上がりが持ち込む新しい情報が少ないのだと読めます。
いずれにせよ、上がり最速はどんな条件でも同じように走ります。
ここまでは、定説が正しいという話ばかりでした。
よく走るのに、なぜ手元のお金は増えないのか
ここからが本題です。
成績がこれだけ違うなら、買えば得をするはずですよね。
上がり最速と6位以下の複勝回収値を、同じ切り口で並べます。
| 切り口 | 上がり1位 | 6位以下 | 差 |
|---|---|---|---|
| 総合 | 76 | 71 | +5 |
| 今走が芝 | 75 | 72 | +3 |
| 今走がダート | 77 | 70 | +7 |
| 前走1〜3着 | 80 | 71 | +9 |
| 1〜3番人気 | 82 | 81 | +1 |
| 4番人気以下 | 72 | 69 | +3 |
| 1勝クラス | 73 | 70 | +3 |
| オープン以上 | 79 | 70 | +9 |
上がり最速はたしかに数ポイント上ですが、どの切り口でも72から82の間に収まっています。
ここで思い出してほしいのが、単勝と複勝の払戻率が80%だということです。
つまり回収値80が「平均的な負け方」で、100ではじめて収支がトントンになります。
72から82は、平均的に負ける範囲です。
勝率が2.3倍も違う情報が、馬券の収支には一度も届いていません。
上がり最速は新聞にも出馬表にも載っている公開情報なので、みんなが見ている分だけオッズに織り込まれている、ということになります。
いちばん期待したくなる馬が、いちばん損をする
ひとつだけ、はっきり損が出る組み合わせがありました。
前走6着以下で、しかも上がりは最速だった馬です。
| 前走6着以下のうち | 複勝率 | 単勝回収値 | 複勝回収値 | 出走数 |
|---|---|---|---|---|
| 上がり1位 | 17.1% | 67 | 65 | 1,505 |
| 上がり2位 | 15.4% | 67 | 75 | 1,817 |
| 上がり3位 | 16.3% | 69 | 76 | 2,243 |
| 上がり4〜5位 | 14.8% | 74 | 68 | 5,242 |
| 上がり6位以下 | 14.2% | 73 | 71 | 36,905 |
複勝回収値65は、この記事で見たどの数字よりも低く出ました。
しかも複勝率は17.1%で、同じ断面のどの区分よりも高いのです。
成績はいちばん良いのに、回収はいちばん悪い。
買われすぎている、としか読みようがありません。
「前走は負けたけれど上がりは最速だった」という馬は、出馬表でいちばん次を期待させる形です。
その期待がそのままオッズに乗ってしまい、実際の成績を追い越しています。
未勝利戦だけは様子が違う
ここだけは未勝利戦に限って見てみます。
この記事の集計はすべて1勝クラス以上で、未勝利戦は最初から外してあります。
参考として並べてみると、効き方がまったく違いました。
| 前走の上がり | 複勝率 | 単勝回収値 | 複勝回収値 | 出走数 |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | 42.7% | 78 | 78 | 3,245 |
| 6位以下 | 14.3% | 63 | 65 | 33,771 |
複勝率の差は28.5ポイントで、1勝クラスの17.2ポイントを大きく上回ります。
未勝利戦の馬はまだ実績が少ないので、上がりが能力を測る数少ない手がかりになっているのでしょう。
出馬表でどう使うか
ここまでの結果を、馬券を組み立てるときの判断材料として整理します。
- 上がり最速を買い材料にしない。複勝回収値は72から82で、平均的に負ける範囲を出ません
- 上がり最速を見たら前走の着順を確かめる。見かけの差の6割以上は着順が作っています
- 「負けたが上がりは最速」は消す。複勝回収値65で、この記事の最低値です
- 芝ダート・人気・クラス・コースで態度を変えない。どの切り口でも例外は出ませんでした
- 上がり6位以下は割り引いてよい。複勝率も回収値も一貫して下です
- 未勝利戦では別の扱いにする。複勝率の差が28.5ポイントと桁違いです
上がり最速は、強い馬を見つける指標としては優秀でした。
勝率は2.3倍で、どんな条件に切っても同じように効きます。
それでも回収値が動かないのは、その優秀さがすでに全員に知られているからで、これは1番人気が32.8%勝つのに買い続けると負けるのとまったく同じ構造です。
よく走ることと、買って得をすることは別の話なのですよね。
出馬表で上がり最速の印を見つけたら、買う理由ではなく前走の着順を見に行く合図として使ってください。
- 出典:JRA 公式・JBIS Search の公開データをもとに当サイトが集計
- 集計期間:2023年1月〜2026年5月の中央競馬平地競走
- 集計対象:1勝クラス以上(新馬・未勝利・障害を除く)約8.4万件(83,884件)の出走データ。前走の上がり順位が確認できる出走に限ります
- 区分:前走の上がり3ハロンの順位で5区分。1位・2位・3位・4〜5位・6位以下で、重複はありません
- 前走の着順:前走1〜3着と前走6着以下の2つ。4〜5着は表から外しているので、2つを足しても総数にはなりません
- 差の判定:複勝率と勝率の差は統計的な検定で確かめています。本文で「ほぼ同じ」と書いた箇所は、検定でも差が確認できなかったものです
- 回収値:100 で収支がトントンです。単勝と複勝の払戻率は80%なので、80 が平均的な水準になります
- 注意:区分によって出走数に偏りがあり、出走数の少ない区分は確定値ではない点にご注意ください
- 同じ「正しいのに儲からない」構造を知りたい人 → 1番人気はなぜ買い続けると負けるのか
- 前走の着順から絞り込みたい人 → 前走1着の馬は本当に買いなのか
- 前走からの距離の変化を見たい人 → 距離短縮は本当に買いなのか
- 芝とダートの替わりを見たい人 → ダート替わりは本当に一変するのか
- 期待値で買い目を決めたい人 → 競馬の期待値の計算方法
